※オリキャラが少しだけ出てきます。















「どうした?監視官。やらないのか?」


「やっ・・・!やりますよ!動かないでください!狡噛さん!」
「はいはい・・・」

狡噛は何度目かの溜息をついた後で、ソファーに座る狡噛の太腿を跨ぐようにして膝立ちする朱を見上げた。
















ことの始まりは数時間前。
公安局刑事課二係の執行官が一人、事件の容疑者を追跡中に重傷を負ったということで欠員補充として狡噛が指名を受けた。
指名したのは二係の芹沢という女性監視官。ウェーブのかかった長い黒髪。切れ長の瞳。唐之杜に並ぶほどの豊満な胸と括れた腰。握手を交わした際にふわりと香水の香りがして、同じ女性である朱でさえ、その魅力に鼓動が速度を増した。

「久しぶりね。慎也君」
「あぁ」


彼女は監視官時代の狡噛も知っているようで『貴方が優秀なのは知ってる。貴方になら安心して仕事を任せられるわ』と扉をノックするように狡噛の胸に拳を二度当て『明日からよろしく』と一係を後にした。


一係の六合塚、分析官の唐之杜以外の女性と狡噛が接している場面をほとんど見たことがないからだろうか。
二人の間にある親しげな空気に朱はひどく胸がざわつくのを感じた。



綺麗な人だったし。
こういうのヤキモチっていうのかな。



仕事が終わると朱の足は無意識に狡噛の部屋の扉の前で止まっていた。
期限付きとはいえ転属の準備などがあるから邪魔をしてはいけないと思いつつも、胸の奥で渦巻く感情をとても一人では処理しきれそうになかった。
インターホンを押し、名前を告げるとすぐに扉が開いた。
「どうした?」
何かあったのか?と心配そうに、同時に警戒するように朱に問いかける狡噛に、朱は首と突き出した手を左右に振って「いいえ、違います!」と否定した。
無理もない。事前に連絡もなく朱が狡噛の部屋を訪ねたことなど今まで一度もなかったのだから。
何か事件があったわけではないが、気がかりなことがあるのは顔に出てしまっていたらしく、朱を見る狡噛の顔からはいまだ心配の色が消え切っていない。そもそも突然訪ねてきて「何もない」といっても説得力がなさすぎる。
「少し、お話いいですか?」
そう言って朱が申し訳なさそうに視線を下に向けると、頭に優しく手が乗せられた。
「追い返す理由がどこにある?」
当たり前のように返ってきた言葉に、心の中に渦巻いていたものが、少しだけ解けて、溶けていくのを感じた。




「素敵な人でしたね。芹沢監視官」
キッチンでコーヒーを用意していた狡噛の隣に立ち、朱は自分用にと数日前に狡噛の部屋に置いていったマグカップを手に取った。
「親しいんですか?」
「何故そう思う?」
「空気・・というか。接し方というか。なんとなくそうなのかなって」
なんとか笑顔を作って、狡噛にマグカップを手渡すが、朱の下手な作り笑いと今の言葉で、狡噛は朱が部屋に訪ねてきた理由を察したようだった。
大きくため息をつくと、受け取ったマグカップをキッチンに置き、朱の方へ向き直る。
「彼女とは同期なんだ。あと佐々山が何度も彼女にちょっかいかけて、殴られるのを止めに入っていたことも多かったからな」
「そうなんですか・・」

覚悟はしていたけど、狡噛の言葉に朱の心がざわめく。
『芹沢さんは私の知らない狡噛さんを知っているんだ』
それをいうなら唐之杜や六合塚もそうなのだが、あの二人にはそういった類の不安を感じることはなかった。近い存在だから仲間意識の方が強くなっているのかもしれない。
狡噛慎也といえば過去の経歴のこともあって、局内であっても避けて通る人間が多かった。元監視官・現執行官。同情と恐怖。接し方を悩む人間が多い中、芹沢のように気さくに接する人間の存在は、朱にとっても喜ばしい存在のはずなのに。壁を飛び越えてくれた人の存在に不安を感じている自分が嫌になる。


それでも、譲りたくないものだってある。
手放したくない。渡したくない。



「浮気・・・しないでくださいね」
気づいたら、狡噛のスーツの裾を控えめに引っ張っていた。
狡噛の吐き出した溜息が朱の頭の上に落ちてくる。
「俺が誰にでも尻尾を振る犬に見えるのか?」
「そういうわけじゃないですけど・・・」
疑っているわけじゃない。ただ同性である自分からみても魅力的な女性が目の前に現れて不安になるなと言う方が無理なのだ。
言葉の続きを口に出せずにいる朱を見て、狡噛は朱の首元に手を伸ばす。
「心配なら首輪でもつけてみるか?」
「首輪なんてどうやって・・・」
「こうやってだよ」
狡噛は朱のシャツのボタンをひとつ外すと、下着でギリギリ見えない位置にある昨夜、自身がつけたキスマークに触れた。
「っ・・・・」

キスマークなんてつけたところで意味なんてないし、それ以前に狡噛が浮気をするとも思っていない。強引に手を出そうとしても狡噛に力技で勝てる人間なんて女性限定と言わず男性だってなかなかいないだろう。それでも、狡噛からの提案は朱の心を甘く疼かせた。
二人だけの秘め事をしているという状況が、心を高揚させているのかもしれない。

「どうする?監視官」

問いかける狡噛も悪戯を唆す子供のように小さく笑っていた。朱が黙ってうなずくと、狡噛はソファーに腰を下ろし、朱の手を引いた。力に逆らうこともせず、朱は狡噛の太腿を跨ぐようにしてソファーに膝をついた。それを確認して、狡噛はネクタイを外すと、襟元を肌蹴させる。


「・・・・・・・・」
「どうした?監視官。やらないのか?」
「やっ・・・!やりますよ!動かないでください!狡噛さん!」
「はいはい・・・」


朱は狡噛の両肩に手をついて首筋に顔を埋める。温かな肌に唇で触れ、吸い上げる。しかし、何分経験のないことで、力加減がわからない。
いつも自分が痕をつけられている時は、痛いか痛くないかなんて考えている余裕はどこにもなくて、ただ熱に酔わされているだけ。



これぐらいでいいのかな?
痛くないかな?


唇を離し、首筋を見てみるも、そこに自分の身体にあるような鮮やかな花弁はなく、少しばかり肌が赤くなっているだけだった。
触れられていた狡噛の方も目視せずとも力の加減で察しがついたのか、朱が言うより先に指摘する。
「その程度じゃ、全然痕ついてないだろ?」
「っ・・・・でも」
「手本見せてやる」
そういうと、狡噛は朱の両腕を掴み、肌蹴たままの朱の胸元に吸い付いた。
「んっ・・・・」
触れられた場所から電気が走る様に全身を熱と痺れに襲われる。しばらくして、わざと音を立てて唇を離すと、糸の切れた操り人形のように朱は狡噛の太腿の上にへたり込んだ。
「・・・ずるいです」
「これぐらいの強さが必要だって教えてやったんだろ」
わからなかったならもう一度やってやろうか?と腰に腕を回され、朱は大丈夫です!と声を張り上げ、再び狡噛の肩に手を添える。
「いきます・・・」
「どうぞ」
緊張しきった朱の声に、狡噛から思わず笑いがこぼれた。恥ずかしさで赤く染まっているだろう顔を隠すように狡噛の首筋に顔を伏せる。
「しっかり痕を残せよ。俺が飼い犬だってわかるように」
その言葉に頷き、唇をつけ、先程、胸元に感じたばかりの力強さを思い出しながら、一度目よりも強い力で吸い上げる。途中、耳元で狡噛が熱を帯びた声を小さく吐き出し、自分の未熟な行為にも狡噛が感じてくれているのだと知って、嬉しくなり、触れる肌に甘く歯を立てる。途端、狡噛の身体が跳ね上がった。


「っ・・・常守」
「動かないでください」


いつもやられてばかりではおもしろくない。
『たまには狡噛さんも思い知ればいいんです』
もう一度強く吸い上げて、朱は唇を離した。今度はくっきりと狡噛の首筋の一点が紅く色づいていた。
照れくささと満足感から、朱が小さく笑うと腰に回ったままの腕に勢いよく抱き寄せられた。
「こっ!狡噛さんっ!?」
「主従交代だ」
『お預けはもう限界だ』『あんた、時間かけすぎだ』と文句を口にしながら近づく唇。
反論しようとして出かけた言葉も、唇を塞がれてしまえば声にならぬまま消えるだけ。
怒りを含んだ声の代わりに生まれたのは熱くて、甘い、喘ぎ声。


ソファーに背を預け、見上げた狡噛の首筋に自分がつけた紅い痕。
狡噛が自分のものである印。数日経てば消えてしまうものだとわかっていても嬉しかった。愛しかった。
覆いかぶさる狡噛に手を伸ばし、首筋に触れる。
「でも恥ずかしいから仕事中はちゃんとボタン締めて、ネクタイして隠してください」
「それじゃ意味がないだろう」
「他の人に『首輪』をつけられそうになった時に見えれば効果はありますから」


今みたいに


笑みを浮かべながら朱が答えると、狡噛は首に触れる朱の手を取り、指を絡めるとソファーに縫い付けた。
「それなら無駄手間だったな」
「えっ?」
「あんた以外とこんな状況になりえない」



犬は忠誠心が厚いんだ




そして独占欲も強いのだと、身体中につけられた『証』をみて朱が知ることになるのはもうしばらく後のこと―――――












FIN









ベタな話すみません!(笑)